NEVER LAND 第2話


「ロン?」
「あ、ごめん。おかえり、ジェシカ」
「もー!しっかりしてよね?ニコルおじさんのお手伝してるんでしょう?」
「うん、なんだか今日は僕がぼーっとしちゃってさ…」
「え〜?大丈夫なの?薬の副作用、とか…?」
「そういえば最近薬の種類増えたかも。そのせいかな?」
「それってちゃんと言った方がいいんじゃないのー?治癒力が他の人よりあったとしても、薬の副作用なんかでフラフラされても困るでしょ?」

「まぁ…、今度"検診"があるからその時に言うよ」

時の流れとは早いもので、僕が12歳を迎えて20年が経った。あれから僕は色々な支援を受けて、別の近くの村へ引越しをした。

「ちゃんと言わなきゃダメだからねっ!」
「わかったわかった。そういえばジェシカ、村長がジェシカに荷物が届いてるって言ってたよ?」
「私に荷物…?」
「何かは知らないけど、急いだ方がいいんじゃない?」
「うん、そうするわ。あ、マロンおばさんがまたクッキー食べに来なさいって言ってたから今度行こうね!じゃっ!」

この村の皆は、ピーターパンの僕をすんなりと受け入れてくれた。
ジェシカは村長のお孫さんで街の学校に通っている、13歳の素敵な女の子だ。
見た目年齢は僕の方が年下だけど、実年齢にすると…。

「ロンや、今日はもうこれで終わりでいいぞ」
「わかった!ニコルおじさん、腰はもう大丈夫?」

ニコルおじさん。おじさんは奥さんを亡くしてからこの村で一人で静かに暮らしている。
先週薪を割っている時に腰を痛めてしまってから、僕が手伝いをしている。
奥さんのことをとても愛していて、毎朝奥さんの写真にキスをしてからではないと一日は始まらないと笑っていた。

「だいぶ良くなったよ。ロンが居てくれて本当に助かった、ありがとう。」
「僕にはこれくらいしか出来ないから…。いつでも頼ってね」
「あぁ。カレンが居たらロンと一緒に暮らせたんだがね…。カレンに会わせてあげたかったよ」
「僕もニコルおじさんの最愛の人に会ってみたかったな」

カレンさん。ニコルおじさんの奥さんだ。
写真の中の彼女はとても幸せそうに笑っていて、薔薇の花束を抱えている。
その花束はニコルおじさんがカレンさんに送ったらしく、もちろん写真を撮ったのもニコルおじさんだ。

「じゃあ僕はこれで帰るね、また何かあったらいつでも言ってね!」
「気をつけて帰るんだぞ、ロン」

この村はそこそこ大きい村だ。だけど、村の皆ほとんどが家族のような存在で誰一人悪い人なんかいない。
ピーターパンの僕でも受け入れてくれた。
何か困ったことがあると誰でも駆けつけてくれる、温かい村だ。



「…おや、ロンじゃないか!」
「マロンおばさん!最近街の仕事が忙しいって聞いてたから居ないと思ってた!」
「何言ってんのさ、あたしがこの村を捨てて機械に溢れた近未来な街に住み込むはずないだろ!あっはっは」

マロンおばさん。ジェシカとの会話に出てきた美味しいクッキーを焼いてくれる人だ。
何と言っても優しくて…、存在も大きい皆のお母さんだ。

「それともなんだい?ロンはあたしが居ないほうがせーせーするのかい?」
「そんなこと思うわけないよ!!マロンおばさんが居なくて僕、…ジェシカも寂しくて。おばさんの笑い声が最近聞こえなくてどうしたのかなって思ってたくらいで…」
「あらあらあら〜〜!嬉しいこと言ってくれるわねぇ、ロンったら〜〜!私のこと口説いてもクッキーしか焼いてあげられないわよぉ〜?」
大きな体をくねくねとさせながら、僕の背中をバシバシと叩く。

「う、…クッキーでも十分、だよっ…うっ。おばさんっちょ、ちょっと痛い…」
「ごめんねぇ〜つい嬉しくてねぇ。あ、そういえば…」
今度は優しく背中を撫でながらおばさんは言葉を切った。

「街に行った時に耳にした話なんだけどねぇ〜、最近ピーターパンたちを狙った"切り裂き魔"が現れたらしいのよぉ…。あたしはロンが心配で心配で…、ロンは街に"検診"で行くでしょう?街に行くときは気をつけなさいよ?」
「う、うん。心配してくれてありがとう…」
「じゃあ、あたしはこれからリサの家に行くから、行くわね!気をつけて帰るのよ〜」
「おばさんも気をつけて!」

はいはい、と頭を撫でられる。おばさんはいつも別れ際にこうしてくる。
気になったのがおばさんが忠告してくれた、僕たちピーターパンを狙った…"切り裂き魔"の話…。

「犯人……はやく捕まってほしいな…」

僕がそう小さく呟いたのと同時に、前から走ってくる音が聞こえてきた。

「はぁっ、はぁっ……ロン!やっと見つけた…!」
そう言って僕の肩を掴んできたのは、ジャスミンさん。ジェシカのお母さんだ。
何やら必死に僕を探していたらしい。いつもの穏やかな雰囲気ではなかった。

「どうしたんですか、ジャスミンさん。何かあったんですか?」
「ジェシカが…、高熱で倒れてしまったの…。さっきまではなんともなかったのに……」


ジャスミンさんによると、ジェシカ宛に届いた変な"石"にジェシカが触れた途端倒れてしまい、その石はどうしたのかと聞くと不思議なことに一瞬にして砂になって消えてしまったらしい。
そんなことあるのかと思ったが、しっかりとジャスミンさんが見たと言う。

「おぉ、ロン。来てくれたか」
「お邪魔します、村長。ケイトさんも」
「ロン…、ジャスミンから聞いたと思うがひどい高熱なんだ。ロンの力でなんとかなるか?」
「熱くらいなら、なんとか出来ると思います」

ピーターパンは治癒力が人間離れしている。 そのため多くのピーターパンは病院へ行けない人や、行きたくても行けない人の手助けをしたりとボランティアをすることがある。
ピーターパンたちが必ず身につけている"ウェンディのお守り"と呼ばれる小さな石がついたアクセサリーを対象者に近づける。
そうすることによって、大きな体力を使わずに治癒活動をすることが出来るのだ。





2015/06/07 執筆者:二宮千草

ご閲覧ありがとうございます。
20年経っても中身はやっぱり子供のままで、体だけ成長しても…あれ?おかしいな?…そんな感じです。