NEVER LAND 第1話


「「ロン!誕生日!おめでとー!!」」

友人たちの掛け声と共にパン!パン!パン!と一斉にクラッカーの音に包まれる。
広いとは言えない我が家の庭で、僕、ロン・アッシャーの12歳の誕生日会が開かれている。

「ロンも今年で12歳か、お兄さんになったなぁ!」
身長が高くて力持ちの父さん。
「ロンがパパみたいな人になってくれたら、ママ安心だわ。無理しないで頑張ってね」
誰よりも頼れる優しい母さん。
「うん!僕父さんみたいな立派な男になるからね!」
こんなに幸せな誕生日会が出来て、こんなに幸せな時間を送れるなんて。
大好きな両親、親しい友人たちにもお祝いされて僕はなんて幸せ者なんだろう!

「ロン、これは私からの誕生日プレゼントよ!」
「すごい!これ、メアリーが描いてくれたの?!ありがとう!!」
「ふふ、どういたしまして。部屋に是非とも飾ってちょうだいね♪」

「ロン!ローンー!ぼくからはー、これだよー!びゅーん!がっしゃーん!」
「えっ、カインの飛行機?!いいのかい?大事にするからね!」

「ロン」「僕たちからは」「これ」
「ブレスレットの紐…?あはは!ありがとう!」

隣の席のメアリーからは、僕の顔が描かれたイラスト。
年下のカインからは、カインの大事な飛行機のオモチャ。
不思議な双子のロキとティルからは、ブレスレットの紐。
その他にもたくさんの誕生日プレゼントをもらった。
たくさんのプレゼントと、たくさんのおめでとう。
「ロンのために皆、本当にありがとうね」
「ロンと友達になってくれてありがとう、感謝しているよ」
母さんも父さんも、皆も、…涙ぐんじゃって…なんだか大袈裟だよね。
また来年も、こうして皆にお祝いしてもらえると思うし、僕だってこれで死んじゃう訳じゃないのにさ!


楽しいパーティーも昼過ぎになったら終わり。

僕らの世界では12歳の誕生日を迎えた子は、"検査"を受けないといけない。
何の"検査"なのか、僕は知らないけれど皆が受けてるものだから怖くない。僕の父さんだってこの"検査"を受けたって言っていた。
皆を見送った後、三人で協力してパーティーの片付けをして、父さんの運転で街の大きな病院へ向かった。

受付を済ませた後、孤立した病室へ僕だけが招かれた。
白衣の先生がいると思っていたのに、その病室にいたのは黒衣の先生だった。
「利き腕と逆の腕を出してね」と、側にいた看護婦さんに優しく言われ僕は右腕を出した。血を抜かれた。
ちくっとしたけど、それほど痛くはなかった。
何かの液体と僕の血が混ざって、その液体は紫色に変わったんだ。




その日の夕食後、僕は父さんと母さんから難しい話をされた。
「……ロン、あのね、落ち着いてきいてほしいの」
母さんの表情はどこか暗く、午前中に開かれた誕生会で見せていた笑顔は無く今にも泣きそうだ。
僕は黙って母さんの言葉に頷いた。
「…………うぅっ…」
そんなに検査の結果が悪かったのか、母さんは泣きだしてしまった。
母さんの隣に座っている父さんは優しく母さんを抱きしめた。

「ロン、これから話すことをしっかりきいてくれ」
「…う、ん」
いつも真剣な話をする時、父さんは僕の眼をまっすぐに見つめて話す。
その見つめる瞳は、決して怒っているわけではなくて、嘘偽り無く真剣に話をしてくれる時の瞳をしていた。

「お前は"ピーターパン・シンドローム"という病気なんだ」

"ピーターパン・症候群"
それは、簡単に言うとこれ以上体が成長することは無いということ。
今のまま子供の姿から変わらず、身長もこれ以上伸びない、声変わりもしない。

「僕はこのまま成長しないって、こと……?」
「……そうだ。」
"ピーター・パン"というお話は知っていた。
ネバーランドという不思議な島から自分の無くした影を探しにくる、大人になりたくない男の子の話。

その男の子は自分の意思で大人になりたくないと思っていて、僕とは違うのに。

大人になれない。
僕は父さんみたいに立派な男になって、母さんみたいな素敵な女性と結婚して、幸せな家庭をもっていく…。
それが、叶わない。

大人になりたくても、なれない。

父さんも泣くことを堪えている、ような気がした。
隣にいる母さんは声を上げて泣いていた。
僕はよくわからなかった。

自分がこれ以上、"大人"になれないという現実離れした紛れも無い事実を。

「先日は、隣の村でロンと同じ診断を受けた子がいたんだ…、気の毒にと思っていたが……、もう他人事なんかじゃないんだな……」
父さんはぼそぼそと呟いた。
他人事だったはずのことが他人事じゃなくなってしまって、父さんもどうすればいいのかわからなくなっているみたいだった。

「……、大丈夫だよ!見た目は変わらないとしても、僕は立派な男になるから心配しないで!」

僕は声を上げて泣いている大好きな両親に笑顔で精一杯伝えた。



2015/06/07 執筆者:二宮千草

ご閲覧ありがとうございます。
プロット段階で自分は明るい話が書けないとわかりました。
明るい話書けるようになりたいです。