ケイトウ 3

懐かしい歌手の歌がBGM。
もう既に力尽きそう。座るとこ間違えたって気付くの遅かった。横顔なんて見れないからひたすら珍しくもない田舎道を食い入るように眺めてる。そろそろ首が痛い。

「お前この歌手好きだったのか。懐かしいよな」
「ハルが、好きだって言ったからな。」

俺が言ったからなんだよ、お前が好きなんじゃないのかよ!顔が赤くなるのはもう反射みたいなもんだ、くそ!

「待ってた。」
「え?なにを?」
「ハル」
「…は?」

ばっと横顔を見つめてみても涼しい顔してるし何言ってんの?

「ハルが帰ってくるの待ってた。花送っただろ」

花…忘れてはないけどあの花がなんだ?え、なんか意味あったの?ただこいつの家が花屋だからじゃなく?

「だからなんだよ。花なんてもう」
「… もう一度俺のになって?今度は守れるから。」

真っ直ぐな目と言葉は攻撃力十分。俺もチョロいな…。いやいや、待て待て。花の話はどこにいったよ。それにそう簡単に折れるわけにはいかない。この5年沢山のものを見てきて俺だって成長してた。

「馬鹿なこと言ってんなよ。お前はこの先可愛いお嫁さんもらって可愛い子供作って、その子供を親に抱かせてやることだって出来るだ。男の俺なんてなにも残せないんだよ。」
「子供はいらない。親には…謝る。ハルがいい。俺が選んだんだ、もう後悔したくない。」

アサヒらしいよ、いつでも自分の選んだ道を堂々と歩く姿を見てきた。その姿に迷ってる自分がバカらしくなる。

「いや、ちょっと待て」
「そんなに心配なら養子をもらうか?」
「…馬鹿だろ、いらねぇよ」

フッと笑ったのがわかって、恥ずかしくなる。わかってんだ、こいつは。俺が何に怯えて逃げたのかを。そしてずっと待っててくれたのか…。
俺の決心を返せよ。結局俺はアサヒに弱い。弱すぎてチョロいわ…あほだ。

でもアサヒがまた隣にいる、それだけで満足してる。問題は山積みだけど今はこの甘い空気に酔っていたい。
結局俺はアサヒを忘れることは出来ないのに、ただ往生際が悪く、傷つく覚悟も出来ていないだけのガキだったんだ。

だから真っ直ぐな言葉で俺だけのための言葉で思いを伝えてくれたアサヒを尊敬したし、側にいたいと願った。どう逃げたって逃げられないんだ、だったら立ち向かうしかないだろう?

「…浮気は許さねえからな。」

ボソっと呟いた俺を優しく笑って一瞬頭を撫でたあいつに今度こそ、強い意志で覚悟をきめた。




その日から数日後、アメリカに送られてきた赤色が鮮やかな花についていたメッセージカードでアサヒの思いの深さを知った。
赤くなった頬を隠すように慌ただしく電話の履歴の一番上のあいつを呼びたした。

『ケイトウ
花言葉は、色褪せない恋。』


2015/02/04 執筆者:t

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