ケイトウ 2

母さんの作る味噌汁は相変わらず上手いな…。このかぼちゃの入った味噌汁は本当堪らない。あぁ、幸せ。

母さんの作った朝食にも丁度いい温度に設定されているリビングにもアイロンがかけられたスーツにも文句の付けようがない。幸せな朝。
だが、幸せな朝のはずなのにどうして朝からこうも頭を抱えにゃならんのだ!今、この瞬間の一番の問題点は

「アサヒよ、なんでお前がここにいる」

俺の言葉にちらっと目線をやるだけのこいつ。すっと母さんに空のお茶碗を差し出す。おかわりしたいくらい上手いよな、わかるよ、味噌汁の上手さは認める。そう、認めるがお前がここにいることは認めてない。

「お前足ないだろ。運ぶ。」
「…それはどうも。素敵な心遣いありがとうございます。だがな?だったら外で待て。」

なんで並んで飯を食う羽目になるの、なんなの、おれ朝食食うのにこんな試練が課されんの?盛大なため息と一緒にこの疲れも出て行ってくれ。
相変わらず、会話は短いし人の話を聞いているのかどうも怪しいやつだ。もう少しコミュニケーションを大事にしてくれ。
勝ってに家に上がるのも飯を一緒に食うこともよくあることだ。田舎のご近所付き合いなんて昔からこんなもんだが今日ほどこの関わりを恨んだことはない。
5年ぶりのあいつは髪が伸びて色も明るくなっているがそれがまた似合ってるのが恨めしい。なにこのイケメンへの進化は。攻撃力抜群だぞ?ちょっとでもときめいた俺死にたい。

隣に座る寡黙野郎に耐え兼ねて席を立った。準備する俺についてまわるこいつは何を考えてるのかわからん。聞いても、うんともすんとも言わない。
切れ長の目がじっと見つめてくるだけ。今や猫や犬の気持ちすらわかると言われている時代なのに、どうしてこいつの気持ちはこんなにもわかりずらいのか。
言葉を使えよ、言葉を。

「式何時からだっけ?もう出ないとまずいか?」 「ああ、そろそろ。」 「んじゃ、出るからお前車行ってろ」
足音の遠ざかる音を聞いて一気に息を吐き出す。はぁぁぁぁぁ。飄々としやがってあんにゃろ。こっちの気持ちを少しは察しろよ!!緊張で死にそう。式場までの道中、あいつと2人なんて。
昨日あんな物を見たせいだ。この5年しっかり心を落ち着けて吹っ切ったはずだった。なのに、会うだけでこんなになるなんて情けない。

でもきっとあいつはもう進んでる。一方的な別れを切り出しそのまま姿をくらました俺に呆れたはずだ。それでも幼馴染みとして接してくれている、それだけで充分だ。

式場までの道中がんばれ、俺。

2014/02/04 執筆者:t

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