ケイトウ 1

あいつから送られてきた花に込められた意味を知った時、あいつには敵わないってことを思い知った。

別れて5年。あの頃は幼すぎて自分のことで精一杯だった。
背徳的な思いや好奇の目に晒されても一緒にいる、なんてそんな覚悟は全く出来てなくて親や友人に隠し事をしていることへの罪悪感に耐えられず、周りの目から逃げるようにアメリカの大学へ進みそのままこっちで就職。今年で社会人2年目だ。

言葉や生活習慣を覚えることに必死になっているうちにあいつのことを思い出す回数が減っていた。時々ふとした瞬間に思い出すことはあっても、忙しく過ごしているおかげで感傷に浸る暇はなかった。

渡米して生活にも慣れてきた3年目の7月、突然あいつから送られてきた花。
別れてからこっちの住所も連絡先も教えていなかったのに届いたものを見て、まだ自分を思ってくれているのでは、なんて甘い考えも少し浮かんだ。
そういえば、あいつの実家は花屋だったな、なんて余計なことを思い出し、花を見る度にあいつの顔が浮かんでしまった。そのせいでなんとなく目を向けられず、花をちゃんと育ててやることはできなかった。

鮮やかな赤はなぜか心に残りネットを利用しケイトウという花だと知った。

自分の気持ちに整理はつけたつもりだった。でも5年たった今でも新しい恋は出来ていない。

5月。久しぶりに休みをもらい、帰国することになった。高校時代の同級生の結婚式に出席するためだ。
もう結婚するやつが出てくる歳なのかと時間が確かに過ぎていることを感じた。結婚式にはあいつもきっと来るんだろう。
でももう大丈夫、5年の間に俺も少しは成長してる。会ったら普通に話すくらい許されるよな?

実家に帰ると懐かしい騒がしさに心が落ち着いた。母さんの飯はこんなに美味かったっけ?

「ちょっとハル!ごろごろしてないで荷物整理しなさいよ。スーツ掛けとくのよ?明日着るんでしょ。」
「はいはい…」

だらだらと動き自室へ。こんなに部屋汚かったのか…昔の自分に絶望するわ。もうちょっと片付けがんばろうよ…。


気づけば黙々と片付けをしてた、独り暮らしのおかげで習慣付いたな。
だいぶ綺麗になったんじゃないか?満足だわ。3時間という犠牲は払ったがいい仕事したと思う、うん。1時か、気持ちよく寝れそうだ。
お布団に潜って一息。枕に飛び込んで抱き締めると指に違和感。なんだこれ。枕の下に本なんて置いてたっけ?
たっぷり、10秒。あー、思い出した。あの頃毎日眺めてから寝るのが日課だったんだ。アルバムなんてよく作ってたよな、俺。写真ひとつひとつにちゃんとコメントが付いてる。
体育祭、文化祭、放課後の寄り道、修学旅行、ほとんどが学校行事のものだったけどどれも一緒に写ってる。あの頃は本当に毎日、常に一緒で気づけばお互い好きだった。
付き合うのも自然で離れるなんて考えもしなかった。恋に夢中であいつに夢中で。自分達の恋がどんなに異常なものか知らずにいた。

「本当…バカだよな。」
何が成長してる、だよ。写真見ただけでこんなに思い出すっていうのに。
寡黙で身長もめきめき伸びて勉強も運動も出来たあいつに敵うところなんてなかったな、なんて。ハイスペックすぎていっそ恨みたい。

アルバムを見返しつつ思い出に浸るうちに意識は落ちていった。



2015/02/04 執筆者:二宮透

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