チャラ男くんと引きこもりくん4
『ほーう、そりゃ大進歩だな!すごいじゃん!』
ヘッドホンから聞こえるテンションの高い声に緩む頬は止められない。顔も本名も知らないけど、同じ年で同じ趣味を持つこの人は外界との関わりが薄い僕にとって大事な親友だ。
『それにしても、どんなに誘っても外に出ようとしなかったお前が…とうとうお友達を作ったなんて。お兄さん泣いちゃう。』
「と、友達って思っていいのかな…」
『何言ってんだよ!家に来てご飯作ってくれた上に、また作るって言ってたんだろ!?充分友達だろ!!むしろ、親友の俺の立場が危ういからな!?』
うぅ…っと泣き真似をするこの人は僕が引きこもりになった原因もその生活がどんなものだったかも知っているから、本当に心配しててくれたんだと思う。
友達…か、と小さく呟くと聞こえていたらしい。ふっと笑った声が聞こえた。
『よかったな。』
「うん!」
柔らかい声には確かな安堵が感じられてどれだけ心配をかけていたのか、申し訳ない。
アイリスを受け取りに行く日も僕がどれだけの努力を要したときも、その後に山田さんのコンビニへ行くためにもかなりの苦悩があり、この親友にアドバイスをもらいながらやっとの思いで家のドアを開けたのだ。
そんな僕をずっと見てきたからそこの安堵なのだと思う。
今まで友達という存在はこの人以外にはいなかったから突然出来た友達になんだか照れてしまう。山田さんも僕のことを友達だと思っていてくれるだろうか。
『いいなー!俺もお前に会いたいよ!遊びたいー!』
「そうだね!もし会えたら絶対楽しいだろうね。」
親友には1度も会ったことはないけど、こんなにも気の合う人はなかなか居ないと思う。ゲームもアニメも同じものが好きで、軽口も言い合える。
前に1度もオフ会に来ないかと誘ってもらったがその時はどうしても足がすくんで外に出られず断りの返事をしていた。
今でもあのコンビニ以外に足を向けることは出来ないから親友に会うのは難しいがもう少し頑張っていつかは会いに行こうと思っていてる。
「いつか絶対会おうね。」
ボソッと呟いた声は聞こえていたらしく、「おう!」と嬉しそうな声がした『あ、そういえば!』とノイズ混じりの声
『もうすぐ春休みだからレベリング付き合えよな!』
ヒュッと息が詰まる気がした。そうか、もう春休み…。
一瞬フラッシュバックした出来事を頭の隅に追いやるように意識して明るい声を出した。
「…っ。うん!いくらでも付き合うよ!」
『おう。てか、お前、進級できんの?せっかくタメなんだからさ、一緒に卒業しようぜ?』
僕の感情の変化に気づいてたんだ。だから言葉を選んでくれたんだってわかる。進級はできるみたいだけど、このままだと退学が見えてる。
僕だっていつまでもこんなことしてられないってわかってる。少しずつでも進まないといけない。
だけど、あの時の絶望感が忘れられなくて制服に触れられないんだ。
『あー、わり。無理しろって言うんじゃなくて、お前少しずつ変わってきてるからさ、復学も出来るようになるんじゃないかって思って。』
「…変われてる?」
『そりゃコンビニにあんなに行くようになったのは大きな変化だろ!それに同じ学校の友達ができたんだろう?心強いじゃん?』
確かにそうだ。大きな変化だった。コンビニだって前はあんなに躊躇っていたのに…。
まだ僕の変化はゆっくりだけど、確実に進んでるんだ。きっかけがあれば人は変わることが出来る、なんてこと信じてるわけじゃないけど、僕は頑張ってみたい。学校に行きたい…。
決心は出来ても覚悟はまだ付いてこないからゆっくり進もうと思う。きっときっかけをくれると思うから。
ふわっと優しく笑うあの人の顔が頭に浮かんで頑張れる気がした。
2015/06/01 執筆者:二宮透
次回も宜しくお願いします。