チャラ男くんと引きこもりくん2


「新学期からはクラス替えもありますし、きっと新しいスタートを切ることができます。春は別れと出会いの季節ですから、一緒に頑張りましょう。」

ザッと便箋に目を通し終え、溜め込んでいた重たい息を吐き出し、ベッドに寄りかかった。
先日届いた手紙は担任の先生からで。やっぱり、といった内容だった。先生の心遣いと一緒にゴミ箱へ手紙を投げ入れ、立ち上がる。

外はやっぱり暖かかく冷たかった。


アイリスを我が家に迎えてから数日。引きこもりは相変わらずだが、少しだけ進歩したんだ。

「あ、いらっしゃい!またコンビニ弁当なの?」

引き戸を開けて適温の室内へ入ると、僕に気づいた店員さんがくすくすと笑っていた。

「…こんにちわ、料理は苦手なんです」

あの日以来たまにこのコンビニを訪れてはあの時の店員さんと話をするようになっていた。
あの時の笑顔に癒されたから、関わってみたいと思った。
最初は家を出るのにもかなりの気合が必要で、僕の米粒ほどにも満たない勇気を奮い立たせるだけで数時間が経過するほどだったが、2度目にあの人に会えた時に、来てくれたんだねってあの柔らかく優しい笑顔で言われて嬉しかった。
今では、ここに来るだけならほとんど抵抗なく行えるまでになった。

「もう、そんなんじゃダメだって言ったじゃん!挑戦してみなよ。」
「…あのレシピみても出来なかったのに?」
「そうだった、もうあれは一種の才能だよね、関心するわ」

はは、と乾いた笑いが出る。ほとんど料理をしない僕を心配して簡単なレシピをいくつかくれたことがあった。
その通りに作ってみたんだけど、出来上がったものはもはや人の食べるものとは思えない代物だった。

「びっくりするくらい不器用だよね、よくそれで1人暮らしできてるね。」
「…ネットでレトルトとかカップ麺買い溜めしてるので」
「え?なにその杜撰な食生活。誰か手料理作ってくれる人くらいいないの?」

いや、そんな思いっきり呆れたって顔しなくても。せっかくの整った顔が台無しですよ。
手料理なんて食べた記憶がほとんどない。だからわからないんだ、僕にとっての料理はレトルトだから。
俯いて黙り込んでしまった僕から何かを感じ取ったのか、店員さんはんー、と唸ってじゃあさ、と話し出す。


「俺が作ろうか?」
「は?」
「今日のバイトもう上がりだし、ご飯まだでしょ?丁度いいよね!」
「は?いや、ちょ」

よし、じゃあ着替えてくるから待ってて!!とレジの奥には姿を消した店員さん。話を聞けよ!はぁ、とため息をつきながらこのまま帰るわけにもいかずコンビニの外で待つことにした。
どうしてこうなったのか。わからないけど、少しだけ楽しみにしている自分がいる。
名前は名札で知った。山田さんというらしい頭も表情も明るい彼は、染めたせいで学校で指導を受けるので面倒だと言っていたからたぶん学生だとは思う。
まぁ年はわからないけど。本当に全然知らないんだ、なのにどうして手料理を?考えても考えてもコミュニケーション能力も経験値も乏しい僕には理解できず。
わけがわからない…。

「ごめんね、お待たせ」

走ってきたのか、少し息を切らした山田さんを見て思考が停止した。山田さんの声も耳に入らない。だって、その服は、制服は…。

「え、渚高校…?」
「そうだよー!あそこの2年なのよ。あれ?そっか、俺ら自己紹介もしてないのな」

笑いながらすっと手を伸ばし、僕の手をとった。

「俺、山田誠。よろしくな」

いつもの笑顔も今はしっかり見れない。だってその制服は俺のものと同じだから。まさか学年まで一緒なんて。
嘘だ、信じられない!反応を返さない僕の顔を山田さんが覗き込み、おーいと呼びかける。ハッとして自己紹介を返した。

「えっと…田村剛です、こちらこそよろしくお願いします。」

おう!と笑った山田さんに笑顔を返しつつも頭の中は思い出したくないあの出来事でいっぱいだった。


2015/02/14 執筆者:二宮透

次回も宜しくお願いします。