チャラ男くんと引きこもりくん1

−−−−−これは僕と彼が出会った話。



世の中は声と体温で出来ている。

ジーンズに某ショップの名前が大きく書かれたパーカー、毛糸の帽子に黒縁眼鏡。
予約票はしっかり財布に入れたことを確認した、よし、よし。完璧だ、行ける!!
深呼吸をして一気にドアノブをまわす。3ヶ月ぶりの外は思ってた以上に暖かかった。

コンビニは人がまばらでこの時間を選んで正解だった。 こんなところで誰かに会ってしまったら最悪だ。今日だけ、今だけ乗り切れば天国が待っているんだ!
グッと気合を入れ直し店員さんにバッと予約票を突きつける。
一瞬怪訝そうな顔押したお兄さんは、けれどすぐに笑顔をつくり、お待ちください。といいすぐに持ってきてくれた。

少し大きめなその箱には数年前から人気の漫画のイラストが描かれていた。
そう、何を隠そう今日は愛してやまないアイリスのフィギュアの発売日なのだ。
発売が決まった時には涙が出そうなほど嬉しかったが、その後ネット通販が出来ないと知り、別の意味で泣いた。引きこもりには辛い。
外に出るなんてと諦めようかとも考えたが、どうしても諦めきれず1日、いや、数十分間くらいならとコンビニでの受け取りを決めた。

引きこもり生活を送りコミュニケーション能力が皆無に等しい僕。
今日のために何度も店員さんに話しかけるシュミレーションをし、服装だって精一杯のおしゃれをした。
アイリスを迎えるための努力をしてきたのだ。
そして、とうとうこの手にアイリスを迎えることが出来る。
袋に入れられ、はい、と僕に手渡されるアイリス。ああ、アイリス!!



ありがとうございましたーという店員さんのやる気のない挨拶をバックにスキップでもやりだしそうなくらい浮かれてコンビニのドアをくぐろうと歩き出した僕はまったく見えていなかった。
ちょ、お客さん!!と呼ぶ声に振り返ろうとした矢先、突然の小さな衝撃、あっと声を上げながら傾いていく視界、そしてたった今まで胸に抱いていた白いビニール袋。
宙を舞うアイリスに手を伸ばした瞬間、ぐんっと強い力で後ろに引かれ、アイリスは冷たいコンビニの床に横たわった。

「セーフ、あの大丈夫で…「うわあああああああ!!アイリスうううううう!!」

掴まれていた腕を振り払い、ばっとアイリスを抱き上げる。
ごめんよ、アイリス!怪我はない!?袋から取り出し一通り箱を確認し傷などがないことを確認して、ほっとした。良かった、本当に良かった。

「えーっと、お客さん?お怪我は?」
「へ?あぁ、アイリスは無事です!!」
「いや、そっちじゃなくて」
「…あ、はい…大丈夫…です。すみません。」

どうやら、自動ドアではないこのコンビニの入り口に突っ込みそうになったらしい。恥ずかしい。アイリスを手に入れた嬉しさで舞上がっていた。
でもアイリスが無事だったからいいんだ。後ろから腕を引いて、突然のことに驚いて店員さんの胸に倒れた僕をしっかり抱えて助けてくれていた、申し訳ない。
恥ずかしいやら、申し訳ないやらで店員さんの顔を見れずうつむく僕に店員さんは、そっかと安心したように呟いた。

「良かったです、あのままガラスに突っ込むかと。でも自分よりそれを心配するなんて、よっぽど大事なものなんですね。どっちも無事で本当良かった。」

思わず、バッと顔をあげその人を見た。自分よりも大きな身長にふわっとして明るい髪。ピアスに奇抜な髪型。でもそんなことは気にならなかった。

「…はい、大事、です。」
「そっか、それ予約すごい来てますもんね。でも前はしっかり見て歩いた方がいいですよ?」

店員さんの言葉に思わずちょっと笑うと、お兄さんがふわっと柔らかく笑って、優しい笑い方をする人だなと見つめていたら、そのままちょっとだけ頭を撫でられた。
視線が外れ歩き出したその人に慌ててありがとうと伝えると少し目が見開いてまたふわっと笑ってくれた。

また来てくださいねという言葉を背に、アイリスを抱き直して早く帰ろうと歩き出す。少しだけ顔が綻んだ。

フィギュアを本気で心配するオタクな僕を笑いもせず、大事なものだと言ってくれた。
笑顔を向けてくれた、それが嬉しかった。外出も少しは良かったのかな、あのコンビニにならまた行こう、なんて思えた。

あの人の声と手の温もりは忘れられずに僕の体に残っていた。


2015/02/14 執筆者:二宮透

2に続きます。次回も宜しくお願いします。